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住居侵入,窃盗被告事件
東京高等裁判所平成21年(う)第1642号
平成22年1月26日第8刑事部判決


       主   文

原判決を破棄する。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。


       理   由

(中略) 
第2 違法収集証拠の排除に関する主張について
 論旨は,要するに,本件による逮捕に先立つ特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反による現行犯人逮捕は違法であり,このような違法な逮捕及びこれに引き続く身柄拘束を利用して行われた捜査も違法であるから,その過程で収集された毛髪及び被告人の口腔内細胞の鑑定結果を始めとする証拠には証拠能力がないのに,これらを証拠として採用し取り調べた上,有罪の認定に供する一方,原審弁護人からの証拠請求を却下するなどした原審及び原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反及び審理不尽がある,というのである。
1 実況見分調書(原審甲3),写真撮影報告書(同甲4ないし6,8。ただし,同甲4,6は添付写真のみ。以下,同じ。),鑑定嘱託書謄本(同甲11)及び鑑定書(同甲12。ただし,第1ないし第3及び第4の4に限る。以下,同じ。)の証拠能力について
 そこで記録を調査して検討すると,原審が証拠能力を認めた証拠のうち,原審甲3ないし6,8,11(ただし,被告人のだ液に関する記載は除く。)及び12は,被告人の特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反による身柄拘束とは関係なく,独立した捜査によって被害者又は犯行現場から収集したものであって,同法律違反による現行犯人逮捕の適法性を論ずるまでもなく,証拠能力を認めることができる(なお,原審甲11,12の関連性については第1で判断したとおりである。)。原審及び原判決が,これらの証拠を採用し取り調べた上,有罪の認定に供した(ただし,原審甲11は証拠の標目に掲げられていない。)点については,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反及び審理不尽はない。
2 被告人の口腔内細胞に関する鑑定結果の証拠能力について
(1)問題は,被告人から採取した口腔内細胞に関する鑑定結果(原審甲16及び西村の原審証言)の証拠能力である。すなわち,口腔内細胞については,被告人が任意提出し,鑑定を承諾したにしても,あくまで特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反による勾留中に採取されたものである。しかも,どのような経緯,具体的な状況において,被告人から任意提出を受け領置し,鑑定につき承諾を得たのか,必ずしも十分に立証されているとはいい難い。
(2)もとより,同法律違反による現行犯人逮捕及びこれに引き続く勾留に違法があったとしても,本件において,直ちに口腔内細胞の採取が違法となり,その鑑定結果が違法収集証拠となる訳ではない。しかし,違法な身柄拘束下において収集された証拠のうち,いかなる範囲の派生的証拠が排除されるかは,身柄拘束と証拠収集の関連性の強弱等の諸事情のほか,身柄拘束の違法の程度も考慮して検討するべき問題である。原判決が「弁護人の主張に対する判断」の第2の2で説示するように,被告人が任意提出した物であること,身柄拘束下の追い込まれた心理状態を利用して収集されたような形跡もうかがわれないこと(この点については,前記のとおり,十分に立証されているとはいい難い。)のみで,現行犯人逮捕の違法性の存否,程度を検討するまでもなく,両者の間に密接な関連性がないとして,証拠能力を認めたのは相当でない。
 このように,原判決には,違法収集証拠に当たるかを判断する上で前提となる現行犯人逮捕の違法性の存否,程度を考慮に入れないとする点において誤っており,ひいては証拠能力の判断を誤った訴訟手続の法令違反がある。そして,被告人の口腔内細胞の鑑定結果を除く他の証拠によっては被告人が本件の犯人であると認めるに十分でないから,その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
(3)ところで,原判決は,前記のような判断に立ちつつも,「弁護人の主張に対する判断」の第2の3において,原審弁護人の主張にかんがみ検討するとして,特殊開錠用具の所持の禁上等に関する法律違反による現行犯人逮捕は適法であると判断しているが,その証拠として,現行犯人逮捕手続書(原審甲29),夏川葉子の検察官調書(同甲30),秋山五郎の検察官調書(同甲31),実況見分調書(同甲32)及び写真撮影報告書(同甲33)を認定に供していると解される。しかし,原審弁護人は,現行犯人逮捕の違法性を強く主張し、検察官が当初請求した証拠のうち,外国人登録原票(同乙1。写し)を除き,その余のすべてにつき,違法収集証拠であるとして証拠能力を争い,更に現行犯人逮捕の適法性を立証するために検察官が請求した前記の各書証についても,いずれも不同意とした上,逆に被告人を現行犯人逮捕したとする警察官2名(冬木六郎及び一色昭男)並びに現行犯人逮捕に至るまでの状況を目撃した夏川及び秋山の各証人尋問を請求した。それにもかかわらず,原審は,原審弁護人からの証人尋問の請求をすべて却下する一方,前記の検察官請求に係る各書証を「訴訟法上の事実であるから,伝聞法則の適用を受けない」として,不同意のまま採用して取り調べ,前記のとおり現行犯人逮捕の適法性を認定する証拠としていると解される。
 しかし,現行犯人逮捕が違法と判断され,ひいては被告人の口腔内細胞の鑑定結果の証拠能力が否定されることにもなれば,前記のとおり,ほかの証拠によって被告人が本件の犯人であると認定するのは困難になる。原審弁護人の主張等に照らしても,本件において,現行犯人逮捕の適法性は,訴訟の帰趨に直接影響を与える重要な争点の1つであるから,当事者に攻撃,防御を十分尽くさせるべきである。しかるに,現行犯人逮捕手続書や現行犯人逮捕に至るまでの状況を目撃した者の供述調書を不同意のまま採用することをもって事足りるとし,原審弁護人からの現行犯人逮捕に関与した警察官等の証人尋問請求をすべて却下した原審は,原審弁護人に攻撃,防御を十分尽くさせたといえない。原審は,証拠採用に関する合理的な裁量の範囲を逸脱しているといわざるを得ない。この点について,原審には判決に影響を及ぼすことが明らかな審理不尽の違法がある。 
 論旨は理由がある。
 よって,弁護人及び被告人のその余の論旨につき判断するまでもなく,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,同法400条本文に則り,前記のとおり別件の特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反による現行犯人逮捕の適法性及び被告人の口腔内細胞の鑑定結果(原審甲16及び西村の原審証言)の証拠能力の存否につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原裁判所である東京地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。

投稿日時 - 2012-08-15 10:23:19

QNo.7644720

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 1 本件は,被告人が,金品窃取の目的で,店舗併用住宅の1階店舗部分ヘ,隣接する物置の塩化ビニール製波トタン壁に穴を開けて侵入した上,切手,収入印紙等を窃取した,という住居侵入,窃盗の事案である。
 被告人は犯人性を争っており,現場に遺留された毛髪のDNAと被告人の口腔内細胞のDNAが一致したという鑑定結果が,犯人性を立証する重要な証拠であった。原審弁護人は,本件による逮捕に先立つ,別件による現行犯人逮捕が違法であるから,その後の身柄拘束下において採取された被告人の口腔内細胞に関するDNA鑑定の結果等を含め,ほとんどの検察官請求証拠を違法収集証拠であるとして不同意とした。
 2 本判決は,まず,「違法な身柄拘束下において収集された証拠のうち,いかなる範囲の派生的証拠が排除されるかは,身柄拘束と証拠収集の関連性の強弱等の諸事情のほか,身柄拘束の違法の程度も考慮して検討するべき問題である」とした上,原判決において,「被告人が任意提出した物であること,身柄拘束下の追い込まれた心理状態を利用して収集されたような形跡もうかがわれないこと(この点については,……十分に立証されているとはいい難い。)のみで,現行犯人逮捕の違法性の存否,程度を検討するまでもなく,両者の間に密接な関連性がないとして,証拠能力を認めたのは相当でない。」とした。
 そして,原審が,現行犯人逮捕手続書等の書証を不同意のまま採用して取り調べ,これだけで前記の現行犯人逮捕が適法であると判断した点について,「原審弁護人の主張等に照らしても,本件において,現行犯人逮捕の適法性は,訴訟の帰趨に直接影響を与える重要な争点の1つであるから,当事者に攻撃,防御を十分尽くさせるべきである。しかるに,現行犯人逮捕手続書や現行犯人逮捕に至るまでの状況を目撃した者の供述調書を不同意のまま採用することをもって事足りるとし,原審弁護人からの現行犯人逮捕に関与した警察官等の証人尋問請求をすべて却下した原審は,原審弁護人に攻撃,防御を十分尽くさせたといえない。原審は,証拠採用に関する合理的な裁量の範囲を逸脱しているといわざるを得ない。」とした。
 3 訴訟法的事実については,原則として,自由な証明で足りる,というのが多数説である。もっとも,訴訟法的事実といっても,その重要性の程度には差があり,当該事実の性質によって,考えるべきである,とされている。実体に直接関係のない訴訟手続上の事実が自由な証明で足りることについては,それ程争いがなく,判例も,電報電話局長に対する逆探知資料の送付嘱託を行うことの当否又は逆探知に関する証人申請の採否等を判断するための資料について,このような訴訟法的事実については,自由な証明で足りる,としている。
 しかし,訴訟法的事実の中でも,証拠能力判断の基礎となる事実について,自由な証明で足りるかは争いがある。もっとも,証拠能力判断の基礎となる事実については,必ず厳格な証明を要するとするのが相当でないにしても,時に訴訟の帰趨を決する重要な争点である場合が少なくない。そのため,当事者に攻撃,防御を尽くさせるべく,公判廷における適当な証拠調べをした証拠による証明(適正な証明)を必要とすると解するベきであるとする見解が有力である。実務的にも,違法収集証拠の排除法則との関係で証拠の収集過程が重要な争点となっている場合,これらの証拠能力に関する事実については厳格な証明による扱いも多い。厳格な証明によらず,書証を不同意のまま採用して取り調べることが許されるとしても,少なくとも,被告人又は弁護人が捜査手続の違法を具体的に主張し,違法収集証拠であるという証拠が重要なものである時には,捜査官等の関係者の証人尋問を実施するなどして,当事者に攻撃,防御を尽くさせるべきであるというのが,一般的な実務的な運用であろう。
 本判決も,このような実務的な運用等を踏まえ,前記の現行犯人逮捕の適法性に関する事実に関して厳格な証明を必要とするかについては,直接判断を示さず,原審が現行犯人逮捕手続書等の書証を不同意のまま採用しただけで,原審弁護人からの警察官等の証人尋問請求をすべて却下した点について,証拠採用に関する合理的な裁量の範囲を逸脱している,とした。先例の少ない分野に関する判断であって,実務上の参考となろう。

投稿日時 - 2012-08-17 03:22:41

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